「父上、ではまいります。」
「うむ・・・。」
コザクラ無茶苦茶流の遣い手
父・小桜ポ兵衛と、その子・小桜茶居治郎は
薄暗い道場で向かい合った。
「やあ」
「応!」
双方が気合い声を発し、それを合図のように、
茶居治郎の頭が小刻みにゆれはじめた。
「むむっ、これは・・・面が打てん!」
「うふふ、ふふふふ・・」
「阿呆め!面は打てんが、胴がガラあきじゃ!!」
「むうん・・」
「・・・お前は本当に修業がたらん。こんなことで道場を大きくできるのか。
今の世の中、コザクラ1羽、剣で食っていこうと思ったら並大抵のことではかなわんぞ。」
「はあ、まあ、食えんのは困りますなぁ。」
「おちょくっとるのかお前は!」
「あれまあ、けんかをしたらいけないよう。
いま、印度寝志亜藩のペン子さんからの手紙がとどいたから、封をかじり切っておいたよう。」
「おいおい、なんで封を切るんだ。
というか、それならそれでなぜはしっこまで切らん。出しにくかろうが!」
「あい、あい。でもはしっこは紙が重なっていてかじりにくいからいやなんだよう。」
「しょうがないな。どれ。」
「いそぎお便り申し上げます。
友人より預かったジェンツーペンギンのこどもたち6人をかどわかされ、
また、代々伝わる家宝のペンギンタイムカプセルを盗まれました。
かどわかされたのはもう6月のこと。8月の今も戻ってきてはおりません。
下手人は川向うの悪税関・・いや悪代官、「忌暮(いみぐれ)」様。
忌暮様は、印度寝志亜藩の藩主様のご威光をかさにきて
大事な貢物を屋敷内に留め置くなど、専横目に余ります。
こどもたちがどんなに恐ろしい思いをしているのか心配でなりません。
どうか、ポ兵衛様のお力をお借りできないでしょうか。
あの子たちを一刻も早く助け出してくださいませ。 ペン子」
「これはたいへんなことだ・・。すぐに助けにいかなくては。
これ茶居治郎。おまえゆけ。」
「なんですと?」
「お前はだいたい、おれが若い嫁をもらうくらい元気だからとアテにしすぎなのだ。
いいか、これは修業だ。今より川向うの税関・・じゃない、代官屋敷に赴き、
お前の剣のちからで、こどもたちと家宝を取り戻すのだ。」
「ええ~、まじで~」
「はよいけ!」
「あれまあ、若先生、気を付けてよう。」
ポ兵衛に頭でぐいぐい押され、茶居治郎はしぶしぶ川向うへと旅立ったのであった。
つづく。