忌暮の放ったコモドドラゴンに追い回されつつも
3羽はペンギンヒナを救出しようと走った。
ヒナたちを見つけ、縄を外そうとしたが、
思ったより頑丈な縄で、ポ兵衛の愛刀 藤原ホワ助を使っても切れない。
「くそっ、はずれぬ。」
「コモドドラゴンが来たらおおごとじゃ。どうにかせねば・・・。」
茶居治郎はふと、そばにあったペンギンタイムカプセルの
底蓋をはずしてみた。
中にはなにやら古文書が入っていた。
「・・・ネタ・・に・・困ったら・・我を呼べ・・・?」
さらに奥をさぐると、
なんと伝説の鳥なまはげグッズ
「オカンカーメン」の像が入っているではないか!
茶居治郎は恐怖で一気に細くなった。
(説明しよう。鳥はものすごく怖い目にあうと、毛がぺたんこになって細くなるのだ。)
「どうした茶居治郎!」
「ち、父上、これを・・・・!!」
「ヒエエエエエエ!」
そこにいる者は全員鳥なので、いっせいに細くなった。
ペンギンヒナたちが細くなった瞬間、縄がパラリと床に落ちた。
「でかした茶居治郎!」
「早く逃げなくては。」
一行が走り出して玄関のそばまで来た瞬間。
「ぐわああああ」
コモドドラゴンに出くわしてしまった。
もはや絶対絶命か。
そのとき。
ガラッと湯殿の引き戸が開いて、カピ六が出てきた。
みっしりとした肉(しし)置きの背中に、気持ち良く汗をかきながら
ふるーつ牛乳をあおっている。
ふるーつ牛乳を飲み干すと、
カピ六はゆっくりとコモドドラゴンに向き合った。
「鰻やのカピ六とは、世を忍ぶ仮の姿。
わたしはカピバラ無精(ぶしょう)流の正統継承者、茂屁茂屁(もへもへ)カピ蔵だ。」
「がるるるる・・・」
「カピバラ無精流居合(いあい)、 和(なごみ)の一手!」
カピ六ことカピ蔵はそう叫ぶと、ぼわっと毛を膨らませた。
そしてL・O・V・E の文字を、その身を使って描いたではないか。
「おおおっ・・・」
「なんだこのなごむ感じは。」
「むしょうに風呂にはいりたくなってきたぞ・・。」
「つまらぬことでいがみあうのがばかばかしくなってくる・・」
これこそが、カピバラ無精流の奥義。
戦わなくていい。風呂に入って和んだら、敵も味方もありはしないのだ。
さしものコモドドラゴンも、毒気を抜かれてすっかり和んでしまった。
そのすきにそっと檻をかぶせるコザクラたち。
「いやあ、なごむのう。」
忌暮の表情が別鳥のようにおだやかになった。
「力に力で対抗しても、それはまた遺恨をのこし、争いは果てることがない。
またどれだけ権力をふるい、身を飾っても
風呂にはいればみな同じ、はだかの鳥類だ。
剣を抜くこともなく、コモドドラゴンにも勝てる、和みの力。
わしは何か目が覚めた思いがする。
剣士たちよ、無礼の儀、許してくれい。」
こうして、無事に彼らは川を渡って鳥江戸の街に帰った。
「あれえ、みんな無事だったかね。
いま、おいしいものこさえているから、ちょっと待ってよう。」
「お茶瑠、何を作っておるのじゃ。」
「はい、はい、粟の穂にさっとネクトンをかけまわしたものを
丹念に吐き戻したものだよう。」
「ほう、それはよい、よい。」
夏のおわりの空は、たかく澄み切っていた。
コザクラ剣客商売 完