おいしそうなだんごに、つい小太郎が手をのばすと・・・
「くせものめ!」
小太郎はしたたかに錫杖(しゃくじょう)で手羽を打たれた。(また・・・)
「おまえは何者じゃ。なぜこの部屋にいる。」
見ると、修験者の装束に身を包み、足毛も凛々しいライチョウが静かに立っていた。
「わ、わたしは小桜小太郎と申します。すみません。つい、出来心でだんごに手が伸びました。」
「だんごというより、なぜここに来た。わしを立山風雷坊と知ってのことか。」
「たてやま・・・ふうらいぼう?」
小太郎はびっくりして目を丸くした。
立山風雷坊といえば、わが流派「コザクラ無茶苦茶流」のもととなった
古式剣術の開祖で、伝説の剣豪ではないか。
(うっわあ・・・サイン欲しい!!!」
立山風雷坊は、剣術の古文書にも修験者の姿で登場している。
腰に差した羽扇で相手の鼻先をコチョコチョして
油断させた隙にもう片方の手で持った刀で打ち込むという有名な必殺技
「鳥式二刀流」の遣い手として知られている。
「おお、風来坊様、富山で奥義をきわめ、のちに鳥江戸に来られ、
わが流派「コザクラ無茶苦茶流」のもととなる教えを
開祖に賜ったと父に聞いております。
私は御流派の流れを汲む者。無礼の段、お許しくださいませ。」
「おぬし、拙者にゆかりの武芸者とはどういうことだ。なぜ未来を見てきたようなことを言うのか。」
風雷坊は、赤い眉をひそめてあやしんだ。
「いえ、われらはその未来から、不思議な力でこの時代のこのお屋敷にやってきたのです。
「はて面妖な。言っていることの意味がわからん。」
「風雷坊様、お会いできて光栄です。差し支えなければ、ぜひ一本お手合わせ願いたいのですが。」
「いえ、それには及びませぬ。風雷坊様。」
板戸のむこうから声がした。
「おう、カピ蔵か。どうするつもりだ。」
「このようなわけのわからない者に、風雷坊様がお手ずから稽古をつけるなどもってのほか。
私がお相手つかまつろう。」
そう言うと、板戸がいきなりどんでん返しのように廻り、巨体のカピバラがあらわれた。
「おおっ、まるで忍者屋敷!さすが戦国時代だな!!」
小太郎はワクワクした。
ところがカピバラは勢いをつけすぎたのか、高速でまわる回転扉から出られない。
「うおおおおおおおおおお!」
「カピ蔵、しっかりせんかっ!」
風雷坊がサッと錫杖を差し込むと、カピバラはこちら側にどうっと転がり出た。
腰をさすりながら起きあがったカピバラは言った。
「わたしはごらんのとおり鳥ではないが、風雷坊様の剣にほれこみ、一番弟子となった
忍者カピ蔵。」
「忍者!?」
突然あらわれた(自称)忍者。小太郎との勝負はいかに。
つづく
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