時は歌劇「エリザベートカラー」公演日に戻ります。
舞台終了後、アリサは音松に会いました。
スターのアリサは人目をしのんでストールを巻きました。
(のちにこのスタイルは「アリサ巻き」として流行し、一世を風靡しました。)

「そうだったの・・。カメラマンになられたのですね。」
「僕が新聞社に入って報道カメラマンの仕事を始めたころ、
アリサさんがトップになられたことを知りました。
それから公演のたびに紫のバラを贈っていたのは僕なんです。
初めてお会いしたとき、紫の着物を着ておられましたから・・。」
「覚えていてくださったのですね。あのときはほんとうにありがとうございました。
紫のバラも・・。いつも私を応援してくださる方がいると、励みになっていましたわ。」
「それはよかった。
・・・今日こうしてお会いしにきたのは、しばしのお別れを言いたかったのです。」
「え、会ったばかりなのに・・どこへ?」
「僕は報道カメラマンとして、海をわたり、戦地に行くことになりました。
前線で今なにが起こっているのか知り、伝える。
危険な任務ではありますが、僕はカメラという道具を持つ者として使命感を感じているのです。」
「そうですか・・。」
半目にみるみる涙があふれてくるのを、アリサはストールでそっと隠しました。
「明日の5時、鳥臭駅から旅立ちます。」
「そんなに早く・・舞台が終わってからでは間に合わないわ。」
「見送りは無理だとわかっています。だから今日お別れにきたのです。
僕は大丈夫。また帰ったら紫のバラを持って会いにきますよ。」
「音松さん・・」
次の日。
アリサはなんとか舞台をつとめましたが、今からでは
鳥臭駅には間に合わない・・・。
「飛べばいいのでしゅ。」
「え、ホ一号ちゃん!?」
「昨日、ふたりの話を聞いてしまったのでしゅ。どうして鳥なのに飛ばないのでしゅか。
そんなとこまでズグロ先輩の影響うけなくていいのでしゅ。」
「そ、そうだったわね。じゃ行ってくるわ。ありがとう、ホ一号ちゃん!」
アリサは文字通り飛んでいきました。自分が鳥だってことに気がついて良かった・・。

「音松さん!」
「アリサさん、なぜここに?!」
「とんできたの。どうしてもお伝えしたいことがあって・・・」
コンコン!
「痛っ!」
アリサを後ろからつっつく者がいました。
「もしもし君たち、帰りなさい」

ふたりを引き裂く声がしました。
クマゲラ(キツツキ)のペッカー警部です。
「こんなところでいちゃいちゃしてけしからん!」
「・・・ああら、こんなところで。ペッカーさんおひさしぶり。」

「や、これはピーチ姐さん。」
「ちょうどよかった。お店のツケがたまっていたから、
これからご自宅に伺おうかと思っていたところですのよ。」
「ええっ、い、いいい、いや、ちょっと用事を思い出したから、署に戻る。
姐さん、また仕事が終わったら寄るから・・・」
ペッカー警部は足早に去っていきました。
「邪魔者は消えたばい。ちゃんと自分の気持ちをつたえること。」
割烹「桃色鳥類」の女将ピーチ姐さんはそう言い残して行ってしまいました。
「ありがとうございます・・。」
「アリサちゃん、僕は・・初めて会ったときから・・。」
「音松さん、私も・・。」
あとはどうしても言葉にならないふたり。
「ジリリリリリリ・・・」発車のベルが鳴り、車掌が扉を閉めてしまいました。
ガラスごしに、ふたりはクチバシをそっとあてました。
巨大コザクラインコが客車を押しはじめ、次第にふたりの距離は遠ざかっていきます。
「♪ 粟穂の花咲くころ・・」
アリサはそっとくちずさみました。汽車は淡い想いをのせて・・・
やがて涙にかすんで見えなくなりました。
ーEND-
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勝手に出演させてしまい申し訳ありませんでした。ご協力ありがとうございました。